大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)76号 判決 1997年12月03日
大阪市中央区十二軒町三番二〇
パルハイツ五〇四号
原告
新堂清美
右訴訟代理人弁護士
南逸郎
藤巻一雄
隹勝
畠田健治
山本雄大
大阪市中央区大手前一丁目五番六三号
被告
東税務署長 太田和男
右指定代理人
下村眞美
長田義博
山村仁司
岡田豊一
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成六年五月一七日付けで原告に対してした亡梅本敬一の死亡に係る原告の相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも平成六年一二月一四日付け異議決定により一部取消された後のもの)を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同じ。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、平成二年一一月二一日死亡した亡梅本敬一(以下「敬一」という。)の長女である。敬一の法定相続人は、原告のほか、妻清子(以下「清子」という。)、長男憲史(以下「憲史」という。)並びに赤木シズエとの間の非嫡出子である赤木敬子及び赤木恵美子(いずれも平成四年四月二一日認知確定)である。
2 敬一の死亡に伴う相続(以下「本件相続」という。)に係る原告の相続税の申告及び課税の経緯は、別表一のとおりである。
3 被告は、平成六年五月一七日付けで、別表一の「更正等」欄記載のとおり、原告に対し、本件相続に係る原告の相続税について、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
4 原告は、別表一の「異議申立て」欄記載のとおり、平成六年七月四日、右3の各処分に対し異議を申立てたところ、被告は、同年一二月一四日付けで、同表の「異議決定」欄記載のとおり、右各処分の一部を取消す旨の異議決定をした。
5 原告は、別表一の「審査請求」欄記載のとおり、平成七年一月一三日、右4の異議決定に対し審査請求を申立てたが、国税不服審判所長は、平成八年二月二六日付けで、同表の「裁決」欄記載のとおり、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は同年三月一二日原告に送達された。
6 前記3の更正処分(ただし、右4の異議決定により一部取消された後のもの、以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、右異議決定により一部取消された後のもの、本件更正処分と合わせて以下「本件各処分」という。)は後記のとおり違法であるから、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし5の事実は認める。
三 被告の主張
1 別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)は、敬一の所有であったもので、原告が本件相続により取得した財産である。
2 本件土地以外に原告が本件相続により取得した財産の価額の合計は、一億六二九七万二四二〇円であり、本件相続開始の際に存する敬一の債務及び敬一に係る葬式費用で原告の負担に属するものはない。
3 本件土地の本件相続開始時における時価は八九七三万〇三一七円である。
4 したがって、原告が本件相続によって取得した財産の価額は右2及び3の合計二億五二七一万二七三七円であり、原告の相続税の課税価格は二億五二七一万二〇〇〇円となる。
5 原告以外の敬一の相続人の本件相続に係る相続税の課税価格の合計は七億五七二七万四〇〇〇円である。
6 そうすると、本件相続に関して原告が納付すべき相続税の額は、相続税法(平成四年法律第一六号による改正前のもの、以下同じ。)の規定に従い、別表二の計算により、同表の<9>の「新堂清美」欄記載のとおり一億〇七九六万四六〇〇円となり、過少申告加算税の額は三九五万三〇〇〇円となる。
7 よって、本件各処分はいずれも適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否・反論
1 被告の主張1のうち、敬一が本件土地を所有していたことは認めるが、その余の事実は否認する。以下のとおり、原告は、本件相続開始時により前に本件土地の所有権を取得しているから、本件土地は原告が本件相続により取得した財産ではない。したがって、原告が本件相続により本件土地を取得したことを前提とする本件各処分は違法である。
(一) 敬一は、原告が新堂庄二(以下「庄二」という。)と婚姻した昭和三七年一〇月一三日、敬一が所有する本件土地及び同土地上の別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を原告に贈与し、同月二〇日原告にこれを引渡し、右贈与の履行を了した。
(二) 仮に、右(一)の贈与が認められないとしても、原告は、昭和三七年一〇月二〇日から無過失で一〇年間ないし二〇年間所有の意思をもって本件土地を占有したので、昭和四七年一〇月二〇日の経過により、また仮に占有の開始時に過失があったとしても、昭和五七年一〇月二〇日の経過により、本件土地の所有権を時効によって取得した。原告は右取得時効を援用する。
2 被告の主張2及び5は認める。
3 同3は不知。
4 同4及び6は争う。
五 被告の再反論
1 敬一が本件土地を原告に贈与し、原告に引渡した事実は否認する。仮に敬一と原告の間に口頭の贈与契約があったとしても、本件相続開始時までにその履行が終わったとはいえないから、相続税法一条の二にいう「贈与により財産を取得した時」が到来していたとはいえず、右贈与契約により原告が本件土地を取得したとはいえない。
2 原告は昭和三七年一〇月一三日から一〇年間ないし二〇年間本件土地を占有した事実は否認する。敬一の生前における原告の本件土地に対する占有は所有の意思を欠く。
第三証拠
本件訴訟記録中の「書証目録」及び「証人等目録」記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因事実1ないし5の事実、被告の主張1の事実のうち、敬一が本件土地をもと所有していたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告がその主張のように本件土地の贈与を受け又は時効取得したか否か、原告が本件相続によって本件土地を取得したか否か検討する。
1 前記一の争いがない事実、証拠(甲第一号証、第二号証の一、二、第三、第四号証、第七ないし第一二号証、第一四号証の一、二、第一五号証、乙第一号証、第四号証、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 敬一(明治三二年一月一五日生)は、弁護士であり、大阪府議会議員でもあったが、昭和三四年九月二五日、日本住宅公団から本件土地を買受け、昭和四〇年八月五日付けで本件土地について敬一のため所有権移転登記が経由された。
(二) 敬一は、昭和三七年九月ころ本件土地上に本件建物を建築した。原告は、敬一の長女であるが、同年一〇月一三日庄二と婚姻し、原告夫婦は、新婚旅行から帰った同月二〇日ころから昭和四五年四月に大阪府池田市に転居するまでの約七年半の間本件建物に居住した。原告夫婦は、その後、現在に至るまで本件建物を生活の本拠としたことはないが、昭和六二年九月ころから昭和六三年七月までの間及び平成五、六年ころ以降は、本件建物を第三者に賃貸し、それ以外の期間は時々庭の手入れの管理等のため本件建物を訪れた。
(三) 原告は、昭和五〇年一一月、大阪府池田市渋谷一丁目五二四番、宅地二三八・九二平方メートルの土地を購入した。原告は、右購入資金として株式会社大和銀行から二五〇〇万円を借入れたが、同月二一日右借入金の担保として、右土地のほか本件土地及び本件建物に抵当権が設定された。本件建物は未登記であったが、右抵当権設定に当たり同月一〇日付けで原告名義で所有権保存登記が経由された。ただし、本件土地については、敬一名義で登記されており、その登記済証も敬一が保管しており、抵当権設定契約は敬一が当事者としてされた。
(四) 原告夫婦は、昭和六二年九月ころ本件建物を賃貸するに際し、本件建物の修繕を行ったが、右修繕に要する費用として三〇〇万円を同年一一月二日株式会社大和銀行から庄二名義で借入れ、同月一〇日右借入れの担保のため本件建物に抵当権を設定した。
(五) 敬一は、平成二年一一月二一日死亡し、これを、妻清子、長女原告及び長男憲史並びに非嫡出子である赤木敬子及び赤木恵美子が相続した。原告は、敬一死亡の当日である平成二年一一月二一日、大阪地方裁判所に敬一を被告として、原告が婚姻した昭和三八年一〇月一三日(正しくは昭和三七年一〇月一三日であるが、訴状に誤って記載した。)に敬一から本件土地の贈与を受けた、仮に右贈与が認められないとしても同日以降本件土地の占有を継続したことにより本件土地を時効取得したと主張して、主位的には昭和三八年一〇月一三日付け贈与を原因とし、予備的には同日付け時効取得を原因として、本件土地について原告への所有権移転登記手続を求める訴えを提起した(大阪地方裁判所平成二年(ワ)第八七六一号)。右訴訟手続については、敬一の死亡により、原告の母清子及び原告の弟憲史が敬一の地位を承継したが、両名は、その口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。そこで、平成三年五月二〇日、同裁判所により、原告の主位的請求を認容する旨の判決が言渡され、同判決は確定した。右判決に基づき、本件土地について、平成四年七月九日、昭和三八年一〇月一三日贈与を原因とする原告のため所有権移転登記が経由された。このように、本件土地につき平成四年七月九日付けでされた原告のための所有権移転登記は、敬一の意思に基づいてされたものではない。
(六) 本件土地の固定資産税は、敬一の生前は一貫して敬一がその負担で支払い、本件土地の登記済証も終始敬一が保管しており、原告に引渡されることはなかったし、原告もこれらの事実を知っていた。
(七) 原告、清子及び憲史は、敬一の遺産について遺産分割協議を行い、平成三年一二月二五日付けで遺産分割協議書が右三名の間において作成されたが、右遺産分割協議書では本件土地は敬一の遺産とはされていなかった。清子及び憲史も当初本件土地は敬一の遺産に含まれないものとして相続税の申告を行っており、平成六年五月になって本件土地が敬一の遺産に含まれるものとする修正申告を行ったが、本件土地を原告が単独で取得することについて、敬一の相続人の中で異議を唱える者はいなかった。
2 原告は、原告本人尋問(甲第一一号証の陳述書の記載も含む。)において、敬一は、原告が庄二と婚姻した際に本件土地及び本件建物を原告に贈与した旨を供述し、敬一の弁護士事務所に勤務していた佐藤明男や庄二の陳述書等(甲第三ないし第一〇号証、第一二号証、第一五号証)にもこれに沿う内容の記載がある。
しかし、前記1掲記の各証拠によれば、少なくとも本件建物の所有権保存登記がされた昭和五〇年以降本件土地を原告に名義変更することについて格別支障はなかったと認められるのに、敬一は死亡するまでの約一五年間原告への所有権移転登記手続をせず、殊に、本件土地あるいは本件建物について前記1(三)及び(四)の各登記がされているのであるから、敬一においては、本件土地を原告に贈与する意思を有していたのでとあれば、右登記の際に合わせて本件土地について原告への所有権移転登記手続をするのがむしろ自然であると考えられる。加えて、本件土地を原告に贈与することに関しては何らの書面も作成された形跡もなく、本件土地の登記済証も依然として敬一が所持したままで原告に引渡されたことはなく、本件土地の固定資産税も一貫して敬一がその負担で支払っており、これらについては原告も知っていたのであり、もとより原告は本件土地の贈与について贈与税の申告をしていないのであって、これらの事情を勘案するならば、敬一が原告主張のとおり本件土地を原告に贈与した旨の前記各証拠は、いずれも採用することができないし、他に右の贈与があったことを認めるに足りる証拠もない、また、前記1の認定事実の下においては、仮に原告が本件建物の居住を開始した昭和三七年一〇月時点において本件土地の占有を開始したものとしても、原告は、以後、父敬一から本件土地を無償で借受けていたもので、その占有は所有の意思を欠く他主占有であることが明らかである。
そうすると、敬一はその死亡当時、本件土地を所有していたもので、本件土地は敬一の遺産であり、更に、前記1の認定事実(特に(五)、(七))の下においては、原告は本件土地を本件相続によって取得したものと認めるほかはない。
三 乙第二、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、本件相続開始時における本件土地の価額は、八九七四万〇三一七円であることが認められる。
四 被告の主張2の事実は当事者間に争いがないから、原告が本件相続によって取得した財産の価額は本件土地を含め合計二億五二七一万二七三七円となり、国税通則法一一八条一項の規定により、原告の相続税の課税価格は二億五二七一万二〇〇〇円となる。そして、被告の主張5の事実も当事者間に争いがないから、本件相続に関して原告が納付すべき相続税の額は、相続税法の規定に従い、別表二の計算により、同表の<9>の「新堂清美」欄記載のとおり一億〇七九六万四六〇〇円となり、国税通則法六五条により、過少申告加算税の額は三九五万三〇〇〇円となる。
5 以上によれば、本件各処分は適法であるから、原告の請求は理由がなく棄却すべきものであり、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 加藤正男 裁判官 西川篤志)
別表一 相続税の課税の経緯及びその内容
<省略>
別表二 相続税額の計算
<省略>
物件目録
一 枚方市香里ケ丘六丁目一九番六
宅地 四二八・五九平方メートル
二 枚方市香里ケ丘六丁目一九番地六
家屋番号 一九番六
木造瓦葺平屋建居宅 一一五・一〇平方メートル
(附属建物の表示)
符号1
鉄筋コンクリート造陸屋根平屋建車庫 一六・九六平方メートル